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脇やら胸やらあらゆる場所が臭いらしい。少し体を寄せただけで、この臭さだ。刺激が強くて目がうるうるしてきた。
こんな臭いのを道場まで案内してやるなんて無理だ。そして、できればあまり長く玄関にいて欲しくない。
(後で、風通しよくして臭いのを薄めよう)
男はいきなり手を伸ばすと、わたしの手から雑巾を取り上げた。ポイっと捨てられるかと思いきや、じっくり舐めるように雑巾を眺めると、気持ちの悪くなるような丁寧な手つきで懐にしまった。
さっきまで廊下を拭くのに使っていた、濡れて汚い雑巾を。
開いた口が塞がらないわたしを一瞥し、では道場の方に伺う、と言いおいて出て行った。
でかい体のくせに足音もなく去ってゆく姿は、やっぱり大層でかかった。
春の午前の光の中で、もしゃもしゃの汚い髪の毛が、てらてら輝いていた。脂が乗っているらしい。
(くさ男の奴、あの雑巾で、自分の体を拭くのだろうか)
似合いじゃないか。
くさ男に付きまとわれた親爺様が、ついに決闘を受け入れ、あっけなくやられたのは、それから三日ほど後のことになる。
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