その二 くさ男

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 脇やら胸やらあらゆる場所が臭いらしい。少し体を寄せただけで、この臭さだ。刺激が強くて目がうるうるしてきた。  こんな臭いのを道場まで案内してやるなんて無理だ。そして、できればあまり長く玄関にいて欲しくない。  (後で、風通しよくして臭いのを薄めよう)  男はいきなり手を伸ばすと、わたしの手から雑巾を取り上げた。ポイっと捨てられるかと思いきや、じっくり舐めるように雑巾を眺めると、気持ちの悪くなるような丁寧な手つきで懐にしまった。  さっきまで廊下を拭くのに使っていた、濡れて汚い雑巾を。  開いた口が塞がらないわたしを一瞥し、では道場の方に伺う、と言いおいて出て行った。  でかい体のくせに足音もなく去ってゆく姿は、やっぱり大層でかかった。  春の午前の光の中で、もしゃもしゃの汚い髪の毛が、てらてら輝いていた。脂が乗っているらしい。  (くさ男の奴、あの雑巾で、自分の体を拭くのだろうか)  似合いじゃないか。  くさ男に付きまとわれた親爺様が、ついに決闘を受け入れ、あっけなくやられたのは、それから三日ほど後のことになる。
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