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その三 時は過ぎる
件の臭い男の出身が播磨国の圓光寺らしいと知ったのは、親爺様の四十九日も過ぎようとしている頃だった。
教えてくれたのは兄様のお嫁さんの血縁で、ぺちゃぺちゃとよく喋るおばちゃんである。
「なにしろ、得体のしれない男らしいよ」
と、おばちゃんは言い、あいつに目を付けられたこと自体が不幸だ、災難だった、父上様が、藩の役目を担う身として毎日精進しておられたのは皆の目にも明らかだった、と付け加えた。
「得体が知れない強い男かもしれないけれど、あんな臭い男は他に知らない」
おにぎりを作って手渡そうとしてくれるおばちゃんに向かい、わたしは言い放った。
「播磨の圓光寺だね。わかった。支度が出来次第、仇討ちに行く。絶対に行く。なにがあっても行く」
この会話を、お喋りおばちゃんは、そのまんま、嫁ぎ先の姉さんに伝えたらしい。
それを聞いて、嫁いだ今でも実家の事についてはキナキナと気にする姉さんは、いてもたっても溜まらなくなった。それで、朝になると同時に着の身着のままでわたしの寝所まで駆けつけて、叩き起こしたというわけだ。
あの、餅菓子のお化けみたいな鬼おたふくの形相を、わたしは生涯、忘れない。
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