その三 時は過ぎる

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 「このお馬鹿っ。お通じっ。おかしなこと考えている暇があれば、一刻も早く嫁いで息子を産むんだよっ」  ばああああああかっ。お通じ、お通じ、うんこたれっ。    女を磨いて、良い家柄の男を掴んで、毎晩がんばって早急に息子をつくる。  それで、毎日毎日赤ん坊の時から、念仏のように、播磨の圓光寺許すまじと唱え続けるんだよっ。  姉さんはそうのたまった。    (嫌だ)  たぶん、親爺様をなくして秋山家を潰された恨みは、わたしよりも姉さんのほうが強かったのだと思う。  姉さんは、わたしとは違って、武家娘としての誇りやら、秋山家の女としての姿勢やらを、それはそれは尊んでいる。もう嫁に行っているんだから、いい加減にすれば良いのに、兄様の嫁にも色々口出ししている。  若死にした母さんも、そういう人だったらしい。  母さんが親爺様に嫁いだ当時、秋山家は古くて良い家柄だったから。  秋山の女であるからには、最後まであきらめずに、時に忍ぶ辛さを味わうかもしれないが、お家にために、尽くすのです。  姉さんには子供がいない。  というより、できないらしい。  旦那様に当たる人が、浮気三昧で、うちを空けてばかりいるものだから。  それで姉さんは、自分にはできない願いを、わたしに託そうとしているのだと思われる。  (迷惑なはなし)     
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