その三 時は過ぎる

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 ともあれ、わたしはまだ10歳にもならない子供だった。家を飛び出して播磨まで仇討ちに行くのは無理と、すぐに理解した。  だけど、あの男のでかさと臭さと物事の理不尽さは骨身に染みていて、年月がたっても忘れることはなかった。  時は過ぎる。  姉さんの言うように「良い家に嫁いで子供を産んで策を陰険に練って手を汚さないようにして仇を討つ」のではなく、男のように武芸に励み、誰にも文句を言われないほど強くなってから旅に出ようと決意した。そして、その通りに日々鍛錬に励んだ。  大人になったわたしは、ついにその日を迎えた。  「行ってまいります」  あの日、あの臭い男が入って来た、同じ玄関から、わたしは旅立ったのだ。
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