幸せでした、愛していました。

2/11
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
社会に流されて自分を守るための術と愛想笑いを知った。みんながそう言うから、こうしろって言うから。上司の顔色を窺って、同僚ともほどほどの距離感、部下にも指導することもある。 暦は、それでも夢を追いかけた。理想と現実の違いを知ってもなお、その現実に食らいついた。挫けそうになっても、うまく作曲が出来ないと嘆いたこともあったけれど暦は自分自身と向き合って、それすらもチャンスにしていった。 何もない僕と、夢を追いかけた輝いていたきみとでは、きっと、最初から噛み合ってなかったのかな。 真逆だからこそ補える、愛してさえいれば大丈夫だって、そうきらきらと恋をして愛し合っていたのはもう遠い昔のようだ。 いつ、最後に抱き合ったけ。 いつ、最後にキスしたかな。 もう思い出せないぐらい前だ、今は喧嘩ばかりできみは前よりも帰ってくることが少なくなって、僕も飲み会だとか言い訳して家に帰るのを遅くなった。 出発は同じだったのにどうしてこうなってしまったのかな。…ううん、本当は知っている、僕のせいなんだ。 芽が出ないと悩みながらも自分の思い描いた夢を実現させるために、自分のために生きている暦が羨ましかった。 自分にはなにもなかったから、自分がしたいことはなくて、自分のために生きられない自分が酷くみじめだった。 暦が嬉しそうに笑う顔を、最後にいつ見たのかなぁ、それすらも思い出せない。     
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!