第六章 魔晶獣

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ロゼットはそこから手短に話した。少し前にメリシアとマグマグロの納品の為にシュヴァルツ鉱山に訪れた際、マグマグマと接敵して撃退したことを。 しかし、撃退ということは仕留め損ねたということ。まさか生きているばかりか、魔晶華を取り込んで復活するなどとは思いもしなかったのだ。 「…確かに、あの時はジュエルクエストがあったり黒服さん達も押しかけてきたりで報告どころじゃ無かったしね。でもロゼットちゃんのせいじゃないよ、絶対に」 「そうだぜ。メリシアともどもよく生きて帰ってこれた。それにこっちは多勢に無勢、いくらでも倒す方法なんて…」 そうアーディが励ました瞬間、隠れていた岩に突如亀裂が走る。 「皆ッ!」 アーディはメリシアを本能的に後ろに突き飛ばし、横目でヒーリアがロゼットを抱えて飛び出すのを確認して背後を振り返る。すると轟音と共に岩が砕け、破片がアーディへと落ちてきた。 「うおおおっ!!」 アーディは両手剣を振り回し、瞬く間に5つ弾き飛ばす。そして遅れて落ちてきた岩を、左手のバックルで打ち返した。それと同時に砂塵も晴れ、アーディは青ざめる。 いつの間にか、岩があった所から魔晶華が現れている。まるで岩の中から産まれたかのようだ。頑丈な岩を突き破った衝撃で、脆い魔晶華は既にヒビだらけ。そこに打ち返した岩が、ゆっくりとぶつかった。そこから赤い煙が吹き出すまでの間は一瞬であったはずだが、途方もない長い時間のように感じられた。瞬く間にアーディの全身が赤い煙に覆われ、全身に感じたことのない悪寒と熱と痺れが込み上げた。 「う、うわああああっ!!」 「アーディ!!」 「まずい、晶気!全員離れて、ステラさん!戻って!アーディ君が!!」 晶気。魔物にとっては力を増す魔力の結晶。しかし人間にとっては猛毒。さんざんカイト達から聞かされた話が、現実の脅威となって襲いかかってきた。だがアーディは、距離を取った三人を責める気にはなれなかった。全身を蝕む不快感を必死に堪え、剣を杖のようにして突いて煙から抜け出し、身を投げ出すように倒れ込む。煙から逃げ出したはずなのにまだ視界が赤く、手足に力が入らない。 これが「晶化」か。アーディはどこか冷静に、蝕まれた自分を俯瞰した。だが、それも長くは続かなかった。 「おっけ、任せ…ってヤバ、そっち行った!」 「きゃあ!」 「ううっ!」 目の前を、ヒーリアとメリシアが舞って地面に落ちる。ヌアザの突進で跳ね飛ばされたようだ。そしてそこに残っていたのは、絶望に身を震わせるロゼット一人だけだった。
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