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「あ…あ…」
気丈にレイピアを構えるが、切っ先が震えている。目の前には異形と化し、花のようになった片目で少女を睥睨する怪物。背後からはステラの炎弾を浴びているが、振り向く気配すらない。炎を背負ってなお、憎悪を込めて立ちはだかるその姿を見れば、たとえ百戦錬磨の騎士だったとしても怯むだろう。
「…ブオオアアアアッ!!!」
唾を撒き散らしながら咆哮し、空気が震える。そこで動いたのは、まさかのロゼットであった。しかも剣を前に出すのではなく、詠唱の為の横構えで。
「…い、癒やしの風よ、ほほ、芳香と共に。ぼ、『ボタニカルブリーズ』」
声を震わせながら放ったのは回復魔法。転んで立てないヒーリアとメリシアを中心に、花の香りを伴った旋風が巻き起こった。二人は立ち上がると、すぐに行動に移った。
「助かったよ、ロゼット!こっちは任せて!…アーディ、ひとまずこれを!『アクアヒール』!」
「援護します!『シャープガスト』!」
アーディに癒やしの水が落ち、ロゼットの剣に旋風が宿る。アーディの不調は相変わらずだったが、削れた体力は幾分回復したので、剣を支えに立ち上がる。
「ハァ…あ、ありがとよ、ヒーリ、ア…ゲホッ!」
「無理しないで座ってなさい!その体じゃ無理よ!」
「何言ってる…!あの熊に一泡吹かせて、やらねぇと…」
アーディは気合を入れるように剣を抜き、刃に炎を宿らせようと力強く握り込む。だが、掌に爪が食い込んで血が滲むほど握りしめても、炎どころか熱すら出てこない。
「……な……あれ…?」
「アーディくん…『晶化』状態になると、技が出なくなるの。だから晶気を吸った時点で、聖属性で中和するまで何もできないんだよ。ただの状態異常とは違う、だからせめて休んでいて…!」
ヒーリアは風弾を飛ばしながらアーディを説得する。だが彼は手から剣を放せず、ただ項垂れて立つだけであった。
その時、ロゼットに向けてヌアザが走り出す。覚悟を決めたのか、ロゼットは一度顔の前に剣を立てるように構えてから、刺突のために振りかぶる。
「…引けば皆さんに追撃が来る。この怪物は私だけを狙う。そして怪物の先にさえ行ければ、極光騎士が対処して下さる。…なればこそ!引く訳には参りませんの!」
剣に一層の烈風が迸り、ロゼットの刺突が放たれる。
「奥義!『風塵烈衝』!!」
強化された風の刃から更に放たれた、目で追うのがやっとなまでに高速な6連突きが、空気を裂いてヌアザに殺到した。
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