第六章 魔晶獣

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「グバウッ!!」 顔面に命中するが、僅かに怯むだけ。だが、その一瞬さえあれば次への準備は充分であった。大振りな横薙ぎが迫るが、ロゼットは慌てずに足に力を込めた。 「もう忘れましたの?こちらですわ!」 斬月翔(ざんげつしょう)。敵の攻撃を飛び越え、一太刀を浴びせながら背後に降り立つ技だ。難なく攻撃を飛び越えたロゼットは、背中目掛けて空中で剣を向ける。だが、そこで表情が変わった。 『バ、ラノ、ニオイ……ニンゲン、コロス!!!』 「馬鹿な、喋った!?」 『ウゴオオオオッ!!!』 萎びた腕が赤く光ったかと思うと、それを引き裂きながら突然巨大で赤黒い棘の生えた蔦が生え、背後のロゼット目掛けて突き出した。 「きゃあああっ!?」 剣を弾き飛ばされ、蔦の奔流で全身を切りつけられたロゼットは空中に放り出され、地面に強く叩きつけられた。 「ロゼットちゃん!!」 「二人共、来い…!助けに、行かないと…!!」 アーディは顔を青くしながら、覚束ない足取りで駆け出す。メリシアも普段なら止めるはずだが、目の前の光景に我を失ったのかその後ろに着いていく。 「待ちなさい、二人とも!」 だが、そこでヒーリアの制止の声が飛んだ。 「…大丈夫。あの子の果たすべき仕事はしました。手出しは無用です。ここからは、 『極光騎士(メテオセイバー)』の仕事です」 ヒーリアの声に立ち止まると、倒れ込むロゼットに向かってヌアザが飛びかかる。アーディが雄叫びをあげかけた、次の瞬間だった。 ――業火一閃。鮮やかな閃光と共に真紅の軌跡が砂塵に煙る闇を裂き、おぞましい蔦の巨腕を両断した。その先にいたのは、リヨルド。手にしているのは杖ではなく、銀色の刃を輝かせる銀の刀。どうやらあの長い白杖は仕込み刀のようだ。 アーディが噂に聞き、また過去の手紙で知った、里を救った長剣の騎士が、目の前に現れたのだ。 「ガアアアッ!!!」 痛みに咆哮しながら爪で襲いかかるヌアザ。だがリヨルドは杖に納刀する勢いで爪を受け止めると、体を捻ってヌアザの巨体を難なく泳がせる。そして振り払うと同時に杖先に炎の塊を作り出し、渾身の力で振りかぶった。 「『炎龍烈鎚(えんりゅうれっつい)』!!」 顔面に炸裂した一撃は爆発を伴う打撃と化し、ヌアザの巨体を大きく吹き飛ばして岩山に叩き込んだ。 そしてそれに目もくれず、ロゼットを抱えあげてこちらに近づいてきた。 「ロゼットくん。恐怖を乗り越えてよくやり遂げた。あの時の虚勢は嘘ではないことを証明してみせたな。何が君をそこまで駆り立てるかは想像の域を出ないが…今は休み給え」 「社長…!」 「ヒーリアくん、二人を引き止めてくれたこと感謝する。総務の役割をよくこなしてくれた。ステラくんが直に来る。晶気を取り除いたらすぐ下山してキャンプに行くように」 大立ち回りを演じたのに指示が的確で息一つ上がっていない。これが社長というものかと、アーディは静かに感心していた。
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