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「メリシア、何を」
「貴方病み上がりでしょ?無理されたら困るのよ。それなら消耗してない私と…もう一人くらいいればキャンプに運ぶくらい訳ないから。それに…」
メリシアは、遠くで再びヌアザと戦い始めたリヨルドを見遣る。
「…ようやく見つけたんでしょ、憧れの英雄を。会いに来たんでしょう、そのために。だったら、貴方はそれを間近で見守る義務があるわ」
そのために手紙まで盗み見たんだから、と言いたげな表情だったが、そこは堪えてくれたようだ。
「ヘルナさん、ごめんなさい。ロゼットをキャンプまで運ぶの手伝ってくれませんか」
「勿論だよ。前衛は任せて。岩の護りも暫くは持つから」
「…大丈夫です。ここから先は俺達が絶対に通しません。二人のこと、頼みます」
アーディは頭を下げると、二人を背にして歩き出す。二人は顔を見合わせると、気絶しているロゼットを背負ってもと来た道を戻り始めた。心の片隅で、これを見越していたかもしれないグイードの気遣いに感謝していたのだった。
それと同時に、炎が炸裂する音と共にステラのよく通る声が響き渡る。
「しゃちょー!メリりんとロゼっぴ、ルナちが撤退!麓のジ…グッさんトコ行ったと思われ!」
「グイード君のキャンプだね。賢明な判断だ、彼の予感が当たったといった所かな。…さてステラ君、アレをやるぞ。合わせたまえ」
「承知っ!」
アーディが気を取られている内に、ヌアザはめり込んでいた岩から抜け出しており、ステラの炎弾も意に介さぬばかりにゆっくりと歩いてきている。リヨルドも杖の近接を中止し、空いた片手を前にかざす。ステラと横並びになったが、彼がそれを咎めることはなかった。そしてヌアザが突進し始めると同時に、二人は息を合わせて魔力を込めた。
「「『フレアゲート』!!」」
二条の炎が渦を巻いて盾のようになり、そう視認した次の瞬間には切り離されてヌアザ目掛けて放たれていた。「フレアゲート」は本来炎の盾で相手の攻撃を防御する魔法で、応用次第でそれを前方に飛ばすことが出来るものだ。威力は低く弾速も遅いが、相手を押し返すには確かに効果的だ。しかもそれが2つとくれば、相手が怪力を誇る魔物であっても効果は覿面であった。
「グ、ガ、ガアッ!?」
ヌアザの正面に隙間なく迫る炎の盾。それぞれを片手で抑えざるを得なくなり、ヌアザの進撃は食い止められた。絶え間なく肉の焼ける匂いが立ち込めるが、それ自体にはダメージを負っているようには見えなかった。
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