11人が本棚に入れています
本棚に追加
「命中!ここまでは順調だし!」
「そう来なくてはな。ではステラ君、後は手筈通りに」
「かしこまり!」
そう言うとリヨルドは純白のコートを翻し、ヌァザ目掛けて駆け出した。程なくして、ヌァザの両手を受け止め続けていた炎の盾に亀裂が走る。そして咆哮と共に熊の手が炎を突き破り、爆発を起こした。
間髪入れずにリヨルドは杖を突き、高く上空へと飛び上がる。視界が晴れた時、ヌァザの眼前にはリヨルドはおらず、油断なく指を構えるステラのみ。ヌァザは怒りに任せるように、ステラに向けて突進し始めた。
「ちょ、こっち来んなし!…なんてね!」
だが、ステラは全く慌てた様子がなかった。今まで指をさすような構えだったのが掌を突き出す構えになり、その先に白い光の球が形成されていく。
「アー君、目ぇつぶってて!『シャイニースター』!!」
次の瞬間、周囲が強烈な閃光に覆われてアーディは思わず岩陰に顔を隠す。ヌァザの咆哮が同時に響き渡り、目眩ましに成功したことは理解できた。しかし、それでも護衛もいない丸腰のステラを放置するのは危険。助けに行くべきかとアーディが岩に手をかけた、次の瞬間だった。
――空に、銀の軌跡が閃いた。
「見事だ、ステラ君。ならば私も応えないとね」
コートで顔を覆っていたリヨルドがコートを払うと、鞘だった杖も抜き払われ、月光を思わせるような銀の刀身が姿を現し、怜悧に空気を裂く。そして仕込み刀をゆっくりと上段に振りかぶりながら、顔を覆って呻くヌァザへと降下した。
「――『轟』!!」
刹那、赤黒い毛並に覆われた巨大な背中に、強烈な振り下ろしからなる一太刀が刻み込まれ、血と共に銀の閃光が弾ける。明らかに他の属性攻撃とは違う反応だ。ヌァザももんどり打ち、背中に手を回しながらのたうち回り始めた。
「…手応えあり。だが一撃で仕留められなかったか。思ったよりも肉が厚いな」
リヨルドは冷静に分析すると、刃の血を払ってから再び納刀した。そして異国の剣士がするという、鞘を腰に添えるように持ち、柄に軽く手をかけるような抜刀術の構えを取った。
「ステラ君、適度に距離を。ここからは好きに援護するくらいでいい。後は私に任せ給え。手負いの熊は恐ろしいからね」
リヨルドは、痛みで怒り狂い、毛を逆立たせながら起き上がろうとするヌァザを見据えながら、静かに言い放った。
「――ここから先は、久しぶりに本気を出させて貰おうか」
最初のコメントを投稿しよう!