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リヨルドの言葉に呼応するように、ヌァザが駆け出す。そして晶気を纏った前脚を振り上げ、叩き潰さんとばかりに振り下ろしてきた。
だが、もう既に見切っているのだろう。リヨルドは僅かな動きでそれを避けると、納刀した刀に手をかけ、静かに呟いた。
「『漣』」
声と共に、ヌァザの巨体に斬撃が走る。攻撃を避けたはずのリヨルドはヌァザに肉薄していて、いつの間にか抜刀斬りを放っていたのだ。踏み込みが速すぎて、その起こりが全く見えない。そう考えている内に、リヨルドは回転斬りをしながら後退。そして杖に刀を収めると、瞬く間に杖先に炎の魔力が迸り、まるで赤熱した鎖のような炎が飛び出し、ヌァザの四肢を縛り上げた。四肢を焼く激痛にヌァザは咆哮する。
「『緋連縛』。…そして」
リヨルドは杖を地面に突き立てると、刀を抜きながら目にも止まらぬ速さで駆け出した。拘束がほんの少し弱まったことで前のめりになったヌァザだったが、その時には既にリヨルドの間合いであった。銀の軌跡を残しながら、超高温の刃が上段から振り下ろされる。
「――『篝』」
炎の刃は分厚い熊の肉体も容易く切り裂き、上半身に深々と切り込まれる。叫ぶ間もなく、次の瞬間には渾身の斬り上げによって上半身が爆炎に呑み込まれた。あまりの衝撃に大地が揺れ、ヌァザの巨体も黒煙に包まれながら宙に浮き、地響きと共に倒れ込んだ。
「……あ、あれが社長の本気なのか」
強すぎる。棒術と抜刀術の、無駄のないコンビネーション。アーディはその戦いぶりを見て心胆が冷えるような思いだった。自分達が魔物退治を生業とするカンパニーの職員とはいえ、人の背丈を上回る巨体に怪力、更に晶気まで操る怪物を、たった一人で圧倒してしまった。しかも、ヌァザの倒れる様を観察している姿を見る限りまだ余裕がありそうに見える。一体今までにどれだけの数の魔晶獣を屠ってきたのだろうか。そう思わずにはいられなかった。
「やー、あれでもまだ抑えてる方よ。マジ中のマジでやったら、鉱山真っ二つになっちゃうかも」
「ステラさん!」
「よっす!アー君無事でなによりだし!とりましゃちょーに呼ばれるまでここで待っとく?」
揺れが収まるのを見計らっていたのか、ステラは軽い足取りでアーディの隠れていた岩の後ろへと滑り込んできた。
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