第六章 魔晶獣

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「…いいえ、社長。それは違う」 アーディは咳き込みながら、斜面を駆け下りるヌァザを見つつ訂正する。 「アイツは…最初からロゼットを狙っていました。恐らく、アイツを手負いにしたのはロゼットだからでしょう。相当な恨みがあるはずだ」 「恨み、か…。それに呼応して凶暴化したという訳か。時間がない、立てるかアーディ君」 リヨルドは立ち上がると、スムーズにアーディへ手を差し伸べた。そして力強く引いて立ち上がらせると、すぐに杖を抜刀の構えにして姿勢を低くした。 「降りるのも止まるのも危険だ…。しかし、申し訳ないが援護もしてやれない。少しずつ私達の後を追って降りてくるんだ。目の届く範囲なら、私達でなんとか…守れる!」 言い終わるや否や、リヨルドは抜刀斬りの型のまま斜面を駆け下りた。斜面はヘルナが撤退しながら作ったのか、来た時よりも遥かに荒れており、岩が壁のようにいくつも行く手を阻んでいた。先行していたステラがそれを遮蔽物にして魔法攻撃を撃ち込んでいるが、ヌァザはどちらも意に介していないようだ。魔晶華と化した腕を強引に振り回し、岩を砕いていく。一薙ぎでヌァザの巨体が通れる程の穴が空き、そこを通って再び破壊していく。ステラは飛んでくる破片と、迫りくる腕から逃れるので苦戦を強いられていた。 「は、早くしろし〜っ!隙がないから『ファイアボール』くらいしか撃てないっしょ…!」 ステラがぼやくと、ヌァザの腕が閃く。轟音と共に、晶気混じりの岩片が飛んできた。 「うわっ!『フレアガード』!!」 ステラは咄嗟に炎の盾を作り出し、岩片を受け止める。そして銃のように構えた指を素早く振り下ろし、迫るヌァザへと発射した。爆発こそ起こるものの、炎は敢え無く魔晶華の腕で切り裂かれた。 (これじゃジリ貧ってやつ…?長いこと戦ってるせいで、さすがのあーしも疲れてきた…。けど、これ以上下がったらキャンプの皆がヤバい…!支援?援護?メテオキャリバーも無い皆に?それはさせられない…!だからあーしとしゃちょーでやるしかないっしょ…!) ステラが歯噛みしていると、ようやく待ち望んだ人物が現れた。ヌァザの背後から、杖を振りかぶって飛びかかるリヨルドの姿があった。 「しゃちょー!」 「ゴアウッ!!」 振り返りざまにヌァザの腕が伸びる。リヨルドはそれを杖で捌き、怒涛の連続攻撃に移行するが、ヌァザはそれすらも両腕で捌き続けた。生身の動物同士が戦っているとは思えない金属音が周囲に鳴り響いた。
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