序章・出立の誓い

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序章・出立の誓い

「…そう。決めたんだね、アーディ」 少女の悲しみを湛えた、しかしどこか受け入れるような声が、虫の声が響く夜の帳の中に響く。草が夜風に揺れる小高い丘の上で、二人の若者が月を見上げながら談笑をしているようだった。 「ごめんな、メリシア。けど、これだけは昔から決めてたことなんだ。あの人がこの村を救ってくれたように、今度は俺が皆を助けるんだって」 無造作ヘアの茶髪を風にそよがせながら語る青年の紅い瞳は、ゆるぎない眼光を放っている。たとえ彼を知らない者でも、一目でその意志が固いことが理解できるようであった。 「…うん。私も覚悟していたわ。アーディはこういうこと、昔から決めたら絶対に曲げない子だったもんね」 メリシアと呼ばれた青髪の少女は、困ったように笑いながらアーディに声をかける。そしてややあってから、彼女は再び口を開く。 「…ね、明日はいつの馬車に乗るの?」 「朝一番の王都行きかな。面接が明後日の昼過ぎだから、それに乗れば間に合うさ」 「…ふーん、そっか。…それじゃあ」 すると、メリシアは腰のポーチから一つの箱を取り出した。アーディは少し驚いた表情でメリシアを見る。 「…これ、上京祝い。首都にいくのに田舎っぽい恰好してるんじゃ笑われるわよ」 「お、おう。ダサくて悪かったな」 アーディがその箱を開けると、中には真紅のスカーフが入っていた。白の糸で炎の揺らぎが表現されており、高い紡績技術も覗える。アーディは早速それを取り出すと、自分の手首に巻き付けた。 「ありがとな、メリシア。実は俺からも、プレゼントがあるんだ」 「えっ?」 すると、アーディも照れくさそうにポケットから小箱を取り出した。メリシアは魚や野菜をもらったことは数えきれないほどあるが、こうした場面での贈り物は初めてのため面食らってしまったのだ。 「受け取ってくれよ。俺、昔からお前には世話になってたからさ。そのお礼だ」 「う、うん…ありがとう。…わぁっ」 その中には、青い髪留めが煌めいていた。彼女の髪や清楚な雰囲気によく似合う、水滴を模した髪留め。それを大切に箱に仕舞うと、メリシアは一度月を見上げた。
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