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「…ありがとう。これで私も、お洒落になって働きにいける」
「…えっ?今なんて言った?」
不意に放たれた言葉に、アーディは思わず聞き返す。メリシアがこっちを見ると、その眦には少しだけ涙がにじんでいた。
「私も、明日この村を出るの。アーディも頑張るんだから、私も頑張って外に出なきゃって。…でも、アーディには言えなかった。ごめんなさい」
「……そうか。そこには、魔晶華の危険はないのか?」
「ないと思う。…けど、いつまでも出ないとはわからないわ。どこに現れてもおかしくないんだもの」
アーディは少し下を向くと、メリシアの手をがっちりと掴んだ。二人の間の空間には、月が浮かんでいた。
「アーディ?」
「メリシア、待っていてくれ。お前がどこに行くかはわからないけど、すぐに一人前になって、危険になったら助けに行く。…絶対にだ」
「……ふふっ、待ってるね。アーディ」
儚く、切なく、それでいて美しいひと時が月夜を彩る。二人の門出を祝福し、また慰めるように、月光と夜風が二人を撫でて行ったのであった。
~*~
それから一夜明け、エルンタル村の広場には朝から多くの人々が詰めかけた。大体が村人達だが、主なのはアーディとメリシアの両親親戚である。中には涙を流す者もいて、二人も自然と悲しさが込み上げていた。
「アーディ、達者でな。たまには母さんに顔を見せに帰って来いよ」
「そういうお父さんも、アーディと離れて寂しいんでしょう。…生活に関しては心配してないから、王都暮らし、楽しんでね。でも無理は禁物。母さんとの約束だよ」
「わかってるって。ありがとう」
「うう、パパは心配だよメリシア……たった一人で暮らしていくなんて…代われるなら変わってあげたい……」
「大丈夫だって、メリーは賢い子だろ。…その、母さんは悲しすぎて家から出れないらしいから、昼飯を預かって来た。なに、家の事なら兄さんに任せとけ」
「パパ、お兄ちゃん……うん。ありがとう」
両者それぞれに言葉を交わしながら、別れを惜しむ。しかし、それは馬車の車輪の音で掻き消されることとなる。
「はあ、せめてアーディでもいれば兄貴としては安心なんだがな」
「……そうっすね、ジルスさん。それは、俺も…」
「あ、馬車、来ちゃった…」
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