第一章・カンパニーへようこそ

1/23
前へ
/127ページ
次へ

第一章・カンパニーへようこそ

後に。午前6時発、エルンタル~ツェントルム間の始発便を運転した御者はこう語る。 「あれは二日目の昼くらいでしたかね。お客さん同士が『聞いてない!』『俺も聞いてねえよ!』ってね…急にケンカし始めたんですわ。 まあ確かにこの荒れた道だし?狭い車内に3日もいりゃ、若い人だってストレスの一つや二つは溜まるのも仕方ないとは思うんですが、どうにも様子がおかしくて。 普通御者がお客さんの会話に割って入るなんてのはタブーなんですがね、だんだん馬車が揺れだしてきて馬もそわそわしだしたんで、ちょっと注意したんですわ」 「ちょっとお客さん、喧嘩は外でやってくれませんかねって。そうしたらもう、『部外者は黙ってろ!!』って、息ピッタリに怒鳴られましたわ。仲がいいのか悪いのかわかりませんな。 そして夜になって、馬の飲み水を確保するために沢から戻って来たら、二人共ムスッとして押し黙ってる訳ですよ。…もう、あっしにはかける言葉も見つかりませんでした」 「で、三日目の朝に首都に到着するや否や、運賃をサッと置いてすぐ出てっちまったんですわ。すごい早足で、二人共…。三日前の初々しい二人はなんだったんだってくらい、ギスギスしてましたよ。まあ、旅は本性が出るって言いますからねぇ……」
/127ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加