第一章・カンパニーへようこそ

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門を抜けると、そこには石畳と立派な建築物が軒を連ねる賑やかな通りがあった。二人は3日間馬車で揺られた末に、ついに憧れの王都ツェントゥルムへと足を踏み入れたのだった。行き交う人々は表情も晴れやかで、風に乗って食べ物と水の香り、行商人の賑やかな客引きの声が二人の五感に染み渡っていく。 ああ、これこそが華の王都。田舎、もとい辺境都市で生まれ育った者なら誰もが憧れる王都へと自分は立ったのだ。そんな万感の思いが、アーディとメリシアの胸に込み上げる……はずだった。 二人の表情はあろうことか、王都を覆いつくす青空とは正反対に曇っていた。勿論馬車に酔ったわけではない。あれほど感動的な別れの言葉をかわしておきながら、結局王都まで一緒に来てしまったことへの恥ずかしさと気まずさ、それから来る行き場のない怒りがにじみ出ているのだ。 「…じゃあ俺、このまま真っ直ぐ行くから」 「待って、私もそっち」 「ついてくんなっ!」 「方向同じなんだから仕方ないでしょー!?」 本当に二人は仲良しなのか疑いたくなってしまうほどの喧嘩が勃発するも、二人の足取りは順調に石畳を前進していき、居住区を抜けて運河を橋で越えた先にある商業区へと入ろうとしていた。すると、そこで二人の前に突然小さな人影が割って入って来た。それはバラ色の髪を翻し、むき出しの額を太陽に輝かせ、新品らしいブレザーとスカートを惜しげなく晒しながら、優雅な身のこなしで語り掛けてくる。 「そこのお二人、朝から騒がしくてよ。もしや迷子でして?いいでしょう、今わたくしは気分がいいので、特別にこの王都を案内して差し上げても…」 「急いでるんで!」 「どきなデコ!」 「なぁっ!?」 しかし、さながら闘牛のごとく突っ込んで来た二人の前にあえなく撃沈。簡単に弾き飛ばされ、石畳の上に不恰好に倒れ込んでしまった。するとたちまち、どこからともなく眼鏡の老紳士と黒服のいかつい男が数人現れる。 「だ、大丈夫ですかお嬢様ぁぁ!?」 「おいゴルァ!お嬢に何しやがんでェ!止まれや田舎モンがァ!!」 「…よ、よくってよセバスチャン、お前達…。わたくし、少しも気にしてませんでしてよ…」 その少女は気丈にも立ち上がり、埃で汚れた制服を払う。しかし、そのエメラルドの瞳には少し涙が滲んでいた。
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