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「あ、あんな田舎者知りませんわ…。わたくしには、もっとなすべきことがあります。シャトワール家の名にかけて、これしきで挫けるわけには…」
「あとお嬢のおでこはファッションだゴルァ!!麗しくあられるだろうがオラっふ!?」
「しつこい!」
黒服の男の尻に少女の革靴が突き刺さり、男はその場で悶絶する。
「では気を取り直して、行ってまいりますセバスチャン。次はよほどのことがない限り助けにこないこと。よろしいですわね」
「…わかりました。どうかお気をつけて、ロゼットお嬢様」
恭しく頭を垂れたセバスチャンを背に、少女は一歩を歩き出す。その足取りは、王都の奥部、商業区へと向かっていた。
(朝からとんだハプニングでしたが…これも人助けを旨とするカンパニーに入った宿命。このことは忘れて、いざ、邁進ですわ!)
~*~
商業区の一角に、ひときわ芳香を漂わせる喫茶店がある。そこはコーヒーや紅茶、軽食を飲食できるのは勿論、販売も行う王都に住む人々の間ではそこそこ有名な喫茶店だ。だが、そこでは二人の足は止まらない。むしろ二人三脚…否、ゴール争いをするランナーかラグビー選手のように、互いの肩をぶつけながら先を急いでいるように見えた。その様子を、豆を挽いてもらいながら待つ桃色の髪の少女が見守っていた。
「あれ?今の子達、もしかして…あの方向って」
「ヒーリアちゃん?コーヒー粉、用意できたよ」
「あっ、うん!ありがとうおばさん」
ヒーリアと呼ばれた少女は料金を払うと、コーヒー粉の詰まった紙袋を抱いて店を出ようとする。
「それじゃ、カンパニーのお仕事頑張ってね。次はカイトさんやマグナちゃん達とお店に来てね」
「はーい。それじゃ、行ってきます!」
ヒーリアは愛らしい声で返事をすると、軽い鈴の音と共にドアを閉めた。そして小さく深呼吸して、彼女の職場へと歩みを進めた。このコーヒーも、その職場の備品だ。
「ん~…今日もいい天気っ!『新人さんも来るみたい』だし、今日も頑張ろっと!」
石畳を蹴って、ヒーリアは一歩ずつ前進する。その服装は、先程すれ違ったバラ色の髪の少女と同じブレザーとスカートであった。
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