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何事も無難にやり過ごす事は、佑の学校生活に於いて唯一のモチベーション。成績はそれなり、部活もそれなり、全部それなりが一番。素晴らしい青春は、他人に任せよう。 高3の始め、学校が主催した人権学習会はLGBTがテーマだった。トランスジェンダーである講師の話は興味深くもあり、こうして広く認知を求める活動をしなければならない所に社会の矛盾を感じたりもした。誰もが生きやすい世の中を思い描いてみても、結局やっぱりどうしても、自分には生きづらい世の中である事は覆らない気がした。自分や周囲を守る為に、隠しておきたい事だってある。 人権って何だろうなー正解なんてあるのかなーとモヤモヤしたけれど、感想アンケートは無難にまとめた。 文化委員の佑はアンケートを集める時、講堂の斜め前の席に座っていた宗二郎の、まるで殴り書きのような感想を読んでしまった。 『みんなが生きやすい世の中でも、自分自身が生きやすい世の中なのか、よくわからない。正解がない気がして戸惑った。』 胃の辺りをぎゅっと掴まれた心地だった。それは自分の心の声そのもの。だけど佑には、無難にまとめる以上の事は酷くハードルが高かった。
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