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宗二郎が自分にくれたもの。 後に知ったけれど、この蜥蜴はバルセロナの有名な土産物で、アントニオ・ガウディがデザインしたたくさんの蜥蜴モチーフのひとつだった。 美しいフォルム、モザイクタイル、蜥蜴。ガウディの蜥蜴。それは佑が初めて触れた芸術作品だった。学習机のライトに貼り付けた蜥蜴を見ていると、不思議と落ち着くような気がした。そのお陰か佑の心の中のシュールストレミングは大惨事になることなく、またひっそりと沈んでいった。切なさは残ったけれど、その時の自分にとって大事なものは守れた気がした。 それからずっと、この蜥蜴は佑の宝物のまま現在に至る。 海の家の二階、キッチンの冷蔵庫に貼り付いているのを初めて見た時、宗二郎は飛び上がるほど驚いた後えらく怒ったけれど、『俺の宝物だから外すな』って言うと『触れないから外せない』と赤い顔でまた怒った。そして冷蔵庫には近づかなくなったので、冷たい飲み物も氷も、宗二郎に言われたら、佑が必ず取りに行かなければならなくなった。 だけどそのたびに、幸せだなーと思う。
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