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宗二郎にとって、佑の全てが新鮮だった。 父親が漁師だとか家族経営の海の家とか、職業で差別する訳じゃないけれど、小学校からずっとこの学校に通う宗二郎の周りには居なかったタイプ。何事もソツなくこなして人から好かれる割に、うっすら壁を作って隙がないところも興味深かった。 気付けばいつも佑を目で追って、不意に視線がかち合った時、へらっと笑ってくれるのが嬉しい。でもその感覚は、自分の小さな世界の常識から外れているような後ろ暗さを覚え、意識の隅に追いやった。淡々と繰り返して来た日常を繰り返し続ける以外、宗二郎は生きる術を知らなかった。 それでも。 体育祭のリレーの時は、腹の底から佑の名前を叫んだ。鬱積していた何かを吐き出すように。それは記憶にある限り生まれて初めての経験で、自分がこうして大声を出した事が無かったんだと知った。 特筆すべき事のない、ただの高校生だった自分の人生の中で、佑だけが、いつも新鮮な存在であり続けた。
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