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地元の寂れた海岸、季節終わりの物哀しいビーチ。まるで自分の心のようだと宗二郎は思う。市営の駐車場に車を停め、意を決して砂浜に降りるとすぐ、視界に『海の家』『まえじま』の錆びついた看板が映った。 「……………」 職業柄、この建造物には違和感しか見いだせない。老朽化が激しいうえ潮風に晒され、今にも崩れ落ちようとする廃屋にすら見える。何よりも、堤防を基礎にしてるとしか思えない二階部分が恐ろしい。構造はもとより権利関係はクリアできてるのか? いやいや、自分はここに調査をしに来た訳じゃない。不毛な恋心を、中途半端だった青春を葬りに来たんだ。とは言え営業時間中っぽいし、いきなり入って行って告白なんか出来ない。いやその前に、客どころか人っ子ひとり見えないけれど、そもそも佑は今ここにいるのか?何にしても暫く時間を潰すしかない。が、どうしても、風に揺れる『氷』の文字から目が離せない。かき氷………もう何年食べてないだろう。 その時、屋内の闇が動いた。いや、外と日陰のコントラストのせいで人影がそう見えた。いやいや、やっぱり黒いわ。真っ黒に日焼けした肌に黒いTシャツ、エプロンまで黒い……… 宗二郎の目の前に、5年5カ月振りの佑が立っていた。
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