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海沿いの小さな街、F市。その街の外れには大企業の工場がいくつかあり、人口の6~7割はそこの関係者。次いで多いのは漁業関係者で、前嶋佑の家も海苔の養殖と加工を生業にしている。
内海を挟んで浮かぶ大きな島は、佑が生まれた時から目の前にある。昔はこの景色に何の感慨もなかったのに、海上自衛隊を退職し実家に戻ってからは、見るたびに『やっぱここがサイコーだわ』と思うようになった。性癖的には自衛隊も、目の保養と言う意味で非常にいい環境だったけれど。
「佑~~イチゴミルク金時、玉子焼き(※出汁につけて食べるたこ焼き)とカレー」
「玉子焼き10分待って」
「あとさーこの海苔貰ったんだけど、味付けしてくれる?」
「急ぎ?」
「いーや。俺が食うやつだから」
垂水宗二郎は佑の高校時代の同級生で、大学の建築科を卒業後、両親が経営する設計事務所に勤めて2年が過ぎた。つい先日、一級建築士の国家試験(の学科試験)を終えたところで、今はひと息つきたい時期らしい。
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