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夏場は家族総出で営む海の家は、佑が幼い頃、祖父母が切り盛りする民宿だった。なので二階部分には今も部屋があり、佑は夏の間は勿論、一年の半分以上をここで寝泊まりする。台風でも来れば吹き飛ばされそうな安普請を少しずつ修繕し、いずれはここに完全に移り住むつもりでいた。実家は姉夫婦が家族で住み着いたうえ甥っ子姪っ子がスペースを要求しだし、肩身が狭くなってきたのが理由のひとつだ。
全て移すにはまだまだ手を入れなければならないけれど、DIYは嫌いじゃない。夏が終わったら、空いた時間は全部注ぎ込んで、なんとか年内に完成させたい。とにかく隙間という隙間を無くして虫たちの侵入を阻止しなければ、宗二郎が泊まってくれない。
今夜も佑が眠りに落ちたら、車で7分の駅前マンション、虫のいない高層階の自宅に戻るに違いなかった。
「さすがに二階の風呂場にフナムシ出なくなったなー」
「徹底的にコーキングしまくってセメント塗り固めて防水加工したからなー。てかフナムシなんて可愛いもんだろ。すぐ逃げるしゴキブリと違って飛ばねーし」
「その名前を出すんじゃねー」
「あ、足下に」
宗二郎は飛び上がって縋り付いてきた。人間、本気でビビると声が出ないと言うことを、佑は宗二郎を見て学んだ。
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