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宗二郎の為に念入りに補修した風呂場からは海と島が見える。元は一般的なサッシの二枚ガラスだった窓を、はめ殺しの一枚ガラスにした佑渾身の作だ。窓の上部はやはり虫の侵入を防ぐ為、細かーい網戸のついたジャロジーにした。それほど宗二郎の虫嫌いは侮れない。 初めてここに泊まってくれる筈だった去年の秋。寝入り端の宗二郎の脚を何かが這い回ったらしく、起きた時、佑はひとりぼっちだった。非常に切なかった。以来もう8ヶ月。少しずつ、でも確実に虫の侵入経路を潰す日々。全ては宗二郎への愛のために。 「いい匂いになってる?」 「うん。おんなじシャンプーの匂いってなんか嬉しいよなー」 宗二郎が持ち込んだソファに寄り添って、録り溜めた録画を観る。宗二郎が試験前に絶っていたダウンタウンの番組をぼ──っと眺め、佑は明日の段取りを考えた。 夜明けと同時に海苔の(いかだ)を、姉の夫・(ゆう)と見に行かなければならない。それが終わったら仕入れに行って、ここに戻って仕込みをして。早い客は7時頃からパラソル貸せだの浮き輪に空気入れろだのとやって来る。 世間の夏休みは長い。
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