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とある小学校で教師が死んだ。
死因は不明だ。
状況を見ても、他殺とも事故死とも判断がつかない。
いや、もはや事故死とするしかないのだが、辻褄が合っていないのだ。
教師の死因は、背中から鉛筆で心臓を一突きされたこと。
それ自体もかなり妙だ。
肩甲骨と胸骨の隙間をそんなに綺麗にすり抜けるのは至難の技だ。
人体の骨格を知悉した医者でも難しいだろう。
偶然なんて言葉じゃ片付けられない。
それに、教師の他に教室にいたのは小学生だけなのだ。
どうやって自分の身長より高い位置にある女性の背中に鉛筆を突き立てるというのだ。
腕力の問題だってある。
物理的に不可能としか思えないのだ。
とりあえず、日頃から生徒に嫌われている先生だったのかどうかを確認したかった。
同僚の教師たちからは、まあ普通の証言が引っ張れた。
普通に生きてきた人間なら、これぐらいの評判が妥当だろうというところ。
妙な恨みを持ってるらしい奴もいたが、好意的に思っている人間も少なくない。
仕事ぶりも別段悪くなさそうだ。
聞き取りの結果は悪くないなと思っていたのだが、問題は別にあった。
生徒たちからは妙な証言しか出てこなかったのだ。
子どもたちは、闇がなんだとか、黒い霧がなんだとか言っている。
話にならなかった。
目の前で教師が死んだ事実に耐えかねたのだろうと俺は思った。
集団幻覚でも見たのだろうというのが俺たちの見解だ。
ただでさえ多感な年頃だし、そもそも教師が死ぬ前にもう一つの事故があったのだから、しょうがないことなのかもしれない。
捜査は難航するだろう。
なんとなくだが、長年の勘が今回のヤマは解決できないと言っている気がした。
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