<1>就職戦線に突入であります~ハヤト~

1/6
15人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ

<1>就職戦線に突入であります~ハヤト~

 リビングにポッカリと浮かんだ漆黒の空間。直径五十センチほどの球体。 「チハル?」  あれっ  おかしいな  そこにいたはずのチハルの体が、半分欠けている。 「お兄ちゃん。助けて…」  苦しそうな表情のチハル。必死に、手を伸ばしてきた。しかし、その指に触れた途端、チハルは漆黒の空間へと吸い込まれていったのだ。  息絶えそうな悲鳴を残して…  あぁ  またしても、僕は彼女を救えなかった。  ハッ  なんだ、夢か。ベッドの上にいる自分。酷く寝汗をかいている。もう何度目だろう。妹のチハルが消滅した時の記憶。あれから十年近く経ったというのに。忘れた頃になって、夢として蘇ってくる。  あの黒い空間は、一体何であったのだろうか。その後、家に乗り込んできた、怪しげなスーツ姿の人達。色々と綿密に調べて帰っていったけど。その調査結果は、フィードバックされず仕舞い。行方不明のまま、処理されたチハル。結局、チハルの存在が、この世界からポッカリと抜け落ちたまま、ただ時間だけが経過してしまっている。  思い返してみれば  あの時の経験が、僕の人生を決定づけたわけで。物理学の道を志したのも、決して無関係ではない。  あっ  いかんぞ!     
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!