暗渠《あんきょ》

4/7
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 それから一週間ほどたったある夜のことだった。  八月も終わりに近づいたのに相変わらず厳しい残暑が続いていた。都会の夏は夜になってもろくに涼しくならない。ヒートアイランド現象によって熱帯夜が続くのだ。僅かでも風が吹けば、まだいくらかは過ごしやすくなるのだろうが、あいにく街灯の光に浮かぶ黒い影となった街路樹の葉は、絵に描かれたかのように音もなく静止している。空気は澱み、ねっとりとした質量をもって肌にまとわりついた。  Aさんはこの日も遅くまで残業をして終電で帰ってきたところだった。 (もう少しでアパートにつく。あんなボロアパートでもエアコンさえつければ……)  あまりの暑さに、いくら呼吸をしても新鮮な空気が肺に送り込まれてくる気がしない。やや過呼吸気味なって眩暈がした。アパートの前にある街灯が白くにじんで見えた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!