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「危ないですよ!」
野太い声が耳に飛び込んできた。警官が懐中電灯の光をまともにAさんの顔に向けて放っていた。辺りは再び闇夜に戻っていた。一瞬「何てことをしてくれたんだ」という激しい怒りが浮かぶ。
「動かないで!」
警官が緊張した声で叫んだ。
ふと我に返ると、Aさんは暗渠の縁に立ち、欄干越しに身を乗り出して川面に向けて手を差し伸べていた。足元では夜の闇よりも黒い、ぬめるような水面が蠢きながら暗渠へと流れ込んでいた。
それから間もなく、Aさんは東京での仕事を辞めて故郷へ帰った。
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