全文

3/3
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
次の日からは、なんとなく声をかけても、なんとなく答えてくれるようになった。 6日目。 「コーヒー好きなんですか?」 「あ、はい。」 7日目。 「何のお仕事されてるんですか?」 「ただの、サラリーマンですよ。」 8日目。 「いつも眠そうですね。」 「はい、これからも徹夜です。」 9日目。 「今日のコーヒー、温かいのなんですね。」 「寒くなってきましたしね。」 「いつも喋りかけちゃって、すいません。」 「いえ、大丈夫ですよ。」 毎回短い会話だけ。それだけでも、話せることが嬉しかった。 コーヒーを飲んで、眠い目をこするあなたに、『頑張って』って言えてる気がして。 金曜日の夜。 いつもの自動販売機に立ち寄った。会える気がしたから。 あ、あの後ろ姿は……。 違う人か。そんな毎回会うわけないよなあ。 何飲もうかな。 烏龍茶のボタンに手を伸ばそうとした瞬間、 「あの、」 「え?」 振り返ると、彼の姿が。 彼から声かけてもらったの、初めてだ。 どんなこと、言われるんだろう。 「こんばんは。」 なんだ、それだけか。 「あ、こんばんは。」 でも、あなたの笑顔を、初めて見た夜だった。 「あなた、コーヒー淹れといたよ。」 「ありがとう。」 「はい、砂糖ね。」 「ああ。」 今でも無口なあなただけど。 「なあ、」 「何?」 「お前の淹れたコーヒーが、一番だな。」 「ありがとう。」 当たり前でしょ。 自動販売機に負けない、あったか~い気持ちを、カップに込めて。 「お仕事、頑張ってね。」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!