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仕事帰りの道に佇む、自動販売機。 たまに寄ってみると、毎回会う人がいる。 今日で4回目だ。3回目までは偶然かと思ったけど。 目が合った。彼は少し目をそらした。 買う順番を譲ってくれてるみたいだ。 「先、どうぞ。」 私がそう言うと、彼は軽く会釈して、自動販売機の前に立った。 暗くてよく見えなかった顔も、自動販売機の明かりに照らされ、横顔が少し見える。 そんなに怖そうな人じゃない。 むしろ誠実で、優しそうな目だ。 彼は過去3回と同じく、微糖の冷たい缶コーヒーを買うと、その場を去っていった。 どんな声、してるのかな。 私は、少ししわしわになったお札を苦労して入れて、緑茶を購入した。 次行ったときも、あの人がいた。 また目が合う。目をそらして自動販売機の前に立つ彼。 慣れた手つきで財布から130円を取り出し、投入して、押すボタンは下段の右から4番目。 「よく、会いますね。」 声をかけてみる。どういう反応をするだろうか。 彼はびっくりしたのか、ちょっと背中をビクッとさせて、間をおいて、 「あ、ああ。」 とだけ、そう答えて、立ち去った。 「そりゃいきなり声かけたらびっくりするよなあ」 何回投入しても落ちてくる、10円玉を諦めて、紅茶を購入した。
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