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「何でだよ。教えてくれなきゃ気になるじゃん」
言いかけて止められるのが一番厄介だ。僕が引く気がなくジッと泰明を見つめていると、観念したのか泰明が「勘違いだったら悪い」と前置きをした。
「昨日電話してた時に、すぐ近くで変な声が聞こえたから」
「変な声?」
「ああ、なんか女性の笑い声……みたいな。でもお前は寝る前だったし、聞いて怖がらせるのもと思ったから昨日は黙ってたんだ」
泰明の気遣いは嬉しいが、それ以上に恐怖が勝ってしまう。体から温度が抜け落ちていくみたいに、僕の全身に鳥肌が立った。
「姉ちゃんかな……」
姉の部屋は僕の隣だ。もしかしたら、姉が僕を怖がらせようとしてそうしたのかもしれない。そうだ。きっとそうだ。
「そうか。お姉さんがいたな。悪いな、変に怖がらせた」
泰明が申し訳なさそうに、眉を下げる。
「大丈夫だから……」
そう言いつつも、僕は授業に集中出来ないほどに気に病んでいた。
そういえば母が最近、戸棚を開けっ放しにしたのは誰かと、躍起になって犯人探しをしていた事を思い出す。まさか幽霊の仕業なのだろうか。
僕の不安はずっとキープ状態にあって、昼休みの食堂で向かい合わせに座っている泰明との会話も、半ば上の空で聞いていた。
泰明はもともとあまり喋らない事もあって、基本は僕が会話の中心を担っている。そのせいか、いつにも増して無言になる時間が多い。
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