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 結果から言うと遭遇は大成功だった。今日に限って野良猫と触れ合おうと思ったらしい奴がバイクから降りてアパートの入り口に来たところに丁度俺が衝突した。俺は面食らって奴は尻もちをついた。 「あ、悪い、大丈夫? てかすいません」 「いえこちらこそすいません」  思ったより幼く高い声が足元でして、差し出した手を掴んだのは想像より小さい手だった。立ち上がった金髪も俺の鼻先に届く程度。 「そこにいつもいる猫が今日はいなくて、どうしたのかなと思って。すみません勝手に敷地内に入ろうとして」 「いえいえそんな。全然大丈夫だと思いますけど……」  気安く奴なんて呼んでいたから、うっかり自分の中で奴は男なんだと思い込んでいた。俺と同じ二十歳前後の成人男性なんだと。尻もちをついた拍子にずれたヘルメットからは金髪のロングヘアがなびいていた。 「あのーいつも配達してますよね。よく見かけてて」 「ああ、そうなんです。ここらへんの地区の担当だからほぼ毎日」  にこやかに笑って話す彼女は俺の脳みそが高速回転していることなんて気づいてもいないんだろう。 「それでちなみに……つかぬことをお聞きしますがおいくつですか? ずいぶん若く見えるので」 「あ、今年十六です」  十六歳。まさか未成年だったとは。俺の目は狂っているんだろうか。 「高校行かずに働いてて、新聞屋のおじさんが仕事くれて。それで毎朝」  何か俺には分からない苦労があるのかもしれない。腕時計を見て焦った様子の彼女を呆然と眺めながらそんなことを思うしかなかった。 「すみませんもう行かなきゃ! ぶつかっちゃって本当ごめんなさい!」  何も悪くないのに彼女はぺこっと頭を下げて再び配達に向かった。取り残された俺はそのまま階段を上がり自室に戻ると、いつものくたびれたTシャツに着替えてベッドに潜り込んだ。 「今日は疲れたな……」  まだ始まったばかりの今日にくたくたになりながら、明日からも彼女を見守ることしか出来ない俺はふがいなく溜息をついて眠りについた。
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