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 夜明けと共に奴はやってくる。毎朝お馴染みの音に乗って。ひとつひとつのポストに丁寧に投函していく新聞配達屋は、仕事を終えると塀の上に顔を向けた。うちのアパートに住みついている野良猫が濁った声で鳴くのを見ていつも口角を少し上げるのだ。多分。二階の部屋から見ているだけの俺には想像することしか出来ないが。  金色に眩しい太陽は奴のヘルメットから覗く髪と睫毛も金色に染める。目にかかる前髪。毛先は透明に色が抜ける。にきびひとつ無さそうな白い肌。ビー玉みたいな瞳。ここからでも分かる美形。お人形さんみたいだなんてよく言うけど。一方的な顔見知り。  バイクが遠ざかっていくとあくびをしてベッドに入る。完全に昼夜逆転した自堕落な生活はもう何ヶ月目だろうか。大学にもたまにしか行っていないから単位は絶望的だろうな。友人からの連絡も途絶えた。このまま俺が死ねば孤独死老人と変わらないなと思う。奴は何歳くらいだろう。見たところ俺と変わらなそうだが学校には行っているんだろうか。早朝の新聞配達のバイトなんて今時やっている奴いるんだな。それとも家業の手伝いか。たまたま奴の存在に気づいてからというもの、奴の仕事が終わったら眠りにつくという習慣が出来てしまった。こんなに気になるのは、やはり奴がやけに綺麗な顔をしているからだろうか。きっとモテるんだろうな。
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