オークはじめました!?その1

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オークはじめました!?その1

仕事を失ってこれで15日目 この小説の主人公であるミクスの生活は,なんというか,目に見えて困窮していた.  いやいや,財布の中身の話だけではない.彼はこれまで,無能なりに労働に身を粉にしてきた.だからせめてもの生活の貯蓄だけは持ち合わせていたのだ.しかし,それだって少しずつ減っていくし,なによりそうなると,気分的に落ち込んでくる.まるで自分の肌を,ポロポロと痛みの無いナイフで崩されていくみたいだった.  そして何より,彼はこれまで彼なりに必死に打ち込んできた職を失ってしまった.その事実はあまりに非情に彼を打ちのめし,そして彼の意欲・性欲を減退させてしまった. 例えば彼は寝床の想像の中でよく,好みの女を創り上げては,彼女を抱き,あるいは彼女に抱かれた.しかし,職を失う少し前からその機会は途端に減ってゆき,職を失ってからは晴れて週に0回となった.彼を癒してくれる女は,ついに想像の世界にすら居なくなってしまったのだった.  どうだろう.このように彼は,気持ちの拠り所の大部分を失ってしまっていたのだった.哀れだろうか,みじめだろうか,あるいは鼻で笑うだろうか,あるいは無関心だろうか.だが次のことをお教えすれば,あなたは彼に同情を禁じ得ないだろう.無能物のせめてもの美徳と言おうか,なんというか,彼は悪いところで真面目だった.つまり,仕事を失ってすぐに彼は求職をはじめてしまったのだ.少しは休めばいいのに.     
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