気になる人

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 私は花を見るのが好きだ。花を飾ると、そこだけ自然を切り取ったみたいでリフレッシュ出来るし、その小さな生命力から生きる力なんかをもらえて、今日も頑張ろうって思える。  そして私が何故会社に花を持って行くのかというと、以前会社の忘年会で社長にそんな話をしたら、好きに花を飾っていいとお許しを頂いたのだ。ご丁寧に一輪挿しまで用意してくれた。花屋の事を聞かれて口を滑らせただけだったのだが、お陰で自分がいるオフィスは勿論、用事があって他のフロアの部署を訪れる際にも花から癒しを得ている毎日である。 「あら、もう出るの?」 「うん。今日は花を入れ替えるから」  ああ成る程、と頷いた母に、持っていたシャーレーポピーの入った袋を掲げて見せて、花屋兼自宅を後にした。皺の入った紅色の花弁が愛らしい花である。会社には電車に十分乗れば到着するので、潰れないよう気を付けていれば、花に大きなダメージはない。  会社はとあるビルの五階から七階の三つのフロアを借りてオフィスとしており、私の所属する部署は六階の一角を拠点としている。構造上小さな部屋をいくつも作ることが難いので、七階の社長室以外のほとんどは、複数の部署で一緒に広い部屋を使っているのだ。  エレベーターに乗り込み、まずは七階へと向かう。社長へ挨拶をしてから、社長室と七階の大部屋の花を手入れし、それからは階段を使って六階へ降りて六階の花、そして五階の花の世話をするのがルーティンワークとなっている。この私の趣味に走った行動を、社内の美化活動として認めてお給料にプラスしてくれている社長には、一生ついていく決心をしている。  エレベーターが七階へ到着し、いつも通りに花を替えながら、ふと六階の花瓶が脳裏に浮かんだ。  最近、気になる人がいる。顔も名前も分からないけれど。いい人である事だけは、確かだと思う。
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