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七階での作業が終わり、階段を下りて六階へと向かう。今日は例のメモは置いてあるだろうか。
花の入った袋をがさがさと揺らしながら、誰ともすれ違わない廊下を歩く。会議室に向かう為に、給湯室の前を通り掛かった所で、突然横から伸びてきた手に腕を掴まれた。
「ひっ……!?」
なんとも情けない叫び声を上げて、手の持ち主の方を見やる。私の腕を掴んでいる方とは反対の手には、先ほどまで読んでいたのだろう書類の束を抱えた若い男性が、ひとりで給湯室に立っていた。覚えのない顔だが、私のものと同じ社員証を首から提げている。
かっと見開いた瞳で此方を凝視していた男性は、私の腕から手を放して慌てたように謝罪を始めた。
「ああすみません、つい……! 驚かせてしまいましたか?」
つい、でどうして私の腕を掴んだのか分からない。そんな気持ちが顔に表れていたのだろう。男性はええと、と身振り手振りで説明を始めようとして、持っていた書類をばさりと床に落としてしまった。
流石に無視は出来なくて、謝り倒している男性と一緒に屈んで、散らばった書類を拾い始める。
「えっと……大丈夫ですか?」
「うわあ、感極まって思わず掴んじゃったり、拾うの手伝って頂いてしまったり、色々とすみません。ありがとうございます」
感極まる?
彼が何の話をしているのか分からず、疑問符を浮かべながら黙々と拾っていく。そして会議の議事録だろうか、手書きの文字がたくさん書き込まれた一枚の紙を拾い上げた時、一瞬、息が止まった。
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