拒絶王

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「た、隊長、しっかり、ちょ、ちょ、おい、お前らも手伝え」  倒れた戦士を三百人の群れの中に引きずり戻す、兵士たち。群れは委縮して密度を上げて全体がゆっくりと後退している。 「ヤーワーオオオオーウォォー!」  己を奮い立たせようと声を上げるが、全体的にキーが二つ三つ高い、ひ弱な声。離れた位置にいる少年は、両腕をダラリとさせ、どこを見ると無く虚ろな目で宙を仰いでいて戦意を微塵も感じさせない。  少年がゆっくりと一歩足を出すと、軍勢はガチャガチャと鎧を擦らせて二歩三歩と下がる。猫背でフラフラと揺れながら数歩歩いて立ち止まる少年。軍勢は距離を空けて挙動不審に動いている。  少年は無造作にしゃがんだ。  呼吸を合わせるように三百の軍勢もピタリ止まった。  どちらも動かない。  呼吸音と、金属の擦れる音は聞こえる。もちろん、軍勢側の発するものである。少年は、瞬き一つせず、微動だにせず。地面に咲く一本の雑草を、無表情のまま眺めている。  五分、十分しゃがんだまま、心臓の鼓動も無いような不動。  三歩下がった位置から小さな少女がそれを見守り和んでいる。乾いた大地で、鬼気迫る緊迫状態である戦場である筈、なのだが二人は、草原で日向ぼっこでもするかの如く、マイペースのまったり空気を醸し出している。  軍勢はその間、恐怖から解放され、冷静さを取り戻しつつあった。そもそも、この国に、たった三百人で、いかに精鋭と言えども、その程度の戦力で攻め込んでくる。と言う時点で、冷静さを欠いている。彼らが、彼らなりの正義の為、国の為、自己陶酔を満たす為、はるばる二週間の旅を乗り越えてやってきたのは、ただの無謀でしかない。  長旅で、疲れているのだ。  まだ我々は本気を出していない。  アウェーだからしょうがない。  ちょっと油断しただけだ。  我らの力はこんなものではない。  さあ、行くぞ皆。全員でかかれば、あんな小僧と小娘など。
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