拒絶王

4/8
前へ
/15ページ
次へ
 是が非でも手ぶらで帰るわけにはいかない。わずかな時間で、自らの不甲斐なさを忘れ、二人への怒りと憎悪を募らせて行く。集団とは恐ろしいもので、雰囲気と言う形のない異常な力のうねりが、個性を消し一つの塊を生み出す。戦意喪失に近い有耶無耶な状態から、誰言うとでもなく再び結束した。  軍勢の中で最初の一歩を踏み出したのは、冒頭で倒された隊長直々の部下である副隊長だった。集団において、初めに自己主張できた者こそ、リーダーとして相応しい、かどうかわからないが、それに追従して、その他の兵士も動き出す。  仮リーダーの、ここで先陣を切れば、間違いなく次期隊長は、この俺だ。と言う野心が、恐怖を凌駕し野望と化した瞬間、それが無謀であるという事を忘れさせてしまった。  鋼鉄の冑のわずかな隙間から見える微笑。彼が、隙あらば敵将の首を討ちとろうと隠し持っていた、必殺のレアアイテム、プレカリバーンを鞘から抜く。王の中の王が所持していたと言うAクラスの伝説の剣カリバーン、その廉価複製版である。切れ味抜群、チーズにフォークを突き刺すかの如く、軽い力で剣先が岩を断つ。と言われる代物である。  恐怖を乗り越えた笑い、ただ勝利だけを確信した大事なネジを吹き飛ばした、止める事の出来ない笑顔で、三年ローンで手に入れた、ワンサイズ小さい模造刀を握りしめ、二歩目の足を上げた。  瞬間、思考以外の動きが止まった。  彼だけでなく、約三百人、鋼鉄の鎧を着た男達全ての動きが止まった。地上数十センチで剣を大振りするもの。槍を今にも撃ち出さん者。全速力で突き進む者。ただ威勢よく声を上げる者。全員の動きが一瞬止まった。物理法則を超え、ほんの一瞬だが静止した。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加