拒絶王

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「クソッ、ふ、ふざけやがって」  まだ戦意が残る新兵がボウガンを射った。  少年目掛けて一直線に飛んで行く渾身の矢。少年は避ける素振りも見せず相変わらず棒立ち。少女も蚊ほどに気にしていない様子で欠伸。  矢の軌道は少年のこめかみを捉えて、間もなく着弾。二人は相変わらず。数秒後。矢の先が触れたか触れないかの位置で「カッ」と軽い音を鳴らして、矢は跳ね返った。  少年の体に向けられた悪意は、跳ね返る。物理攻撃であろうが魔法の攻撃であろうが、光学兵器であろうが、ほぼ全ての敵意ある攻撃は、わずか0.05mmの厚さの保護フィールド、言わばバリアによって、その力は分散され無効化される。  測定された訳では無いので、限度、と言う物がどれほどなのか知る由は無い。事例としては、巨大な鉄のゴーレムに踏まれても、何らダメージを受けずに地面にめり込むだけ、1300度Cを超えるマグマを浴びてもくせ毛の一本も焦げず、現代日本と言われる化学文明から現れた、鉄の箱車から射出された44口径120mm滑腔砲は、彼に直撃する寸前で溶解、蒸発、消滅した。  全ての敵意を拒絶し、コミュニケーションをも拒絶する。  人々は、そんな彼を【拒絶王】と呼ぶ。  では、変化の乏しい戦場へと戻るとしよう。  戦場では呻き声が止み、ため息に変化していた。体力が回復した者が、他の者を引き摺り無言で後退してゆく。重い鎧を震える足でカチャカチャ鳴らしながら、数ミリ単位で少年から離れようとしている。  自軍全滅の戦場からの敗走。成す術も無く、それが恐怖なのか分からずアドレナリンの異常分泌で、快楽であると錯覚する者さえいる。奇声、罵倒、怒号、嘆き悲しむ大人の、それも英雄的な戦士達の情緒は不安定だった。
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