拒絶王

7/8
前へ
/15ページ
次へ
「お兄さん達、お土産も無しで帰れると?」  兵士達の退路である背後からする声。振り向くと、少年の傍にいた少女らしき人物がいた。それは先程より幾分成長しているように見える16から18歳前後の女子、声のトーンもやや低い。  何人かの兵士が確認のため少年の方へ目をやるが、そこには、相変わらず無防備に立ち尽くしている少年しかいない。 「小娘までに馬鹿にされてたまるか!」  まだ気力の残る数人の猛者が襲い掛かる。 「きゃー怖いぃぃガレ様助けてぇぇ」  紙一重で一撃目、寸での二撃目、ミリ単位で三撃目をかわし、寝そべっている兵士を踏みつけながら少年目掛けて走っている少女。その姿は、彼に近づくほど幼くなっていく。 「おあえあおぉぉ!」 「DDD!」  ディーディーディーの詠唱、と言うほどでもないコマンド入力的な魔法。失われた古代魔法の一つディフス・ドゥリウス・ダウロスを独自に簡略化した物で、その威力は絶大。 身に着ける金属製品がパーツ毎に分解する魔法。武器防具はもとより、銀歯も金歯もピアスも身から抜け落ちる。体の奥深くに埋め込まれた物は例外ではあるが、鉄の鎧は留め金をバラバラにされ、鎖帷子は鎖一個一個に分かれ、剣は刀身がスルリと抜け落ちる。  下着姿。と言っても露出性の高い物ではなく、鎧の下に着ける緩衝用の着衣が露になる。男の下着姿はそもそも必要ないので、詳しい描写は省くが、休日に自宅でくつろぐ無防備な状態にされた三百人が、完全に戦意喪失で立ち尽くし、または倒れ込んでいる。 「お土産は、ネジ一本持って帰っちゃダメだから。命が欲しければ、ネ」  小さな少女が、一帯に響き渡る大きな声で注意を促した。パーツをかき集めようとしていた新兵は、ビクッと体を震わせて、鎧の一部を投げ捨てた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加