拒絶王

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「それと、今日は、まだお客さんが来そうなので、君達、早く帰った方が、いいよ。巻き込まれて死んじゃうかもしれないから。そうね、死に物狂いで、走って逃げた方がいいと思うな」  悪魔の微笑みを浮かべて、ドスの効いた声でまくし立てる少女。少し地面から浮いた彼女は、小さめの蝙蝠の羽根をパタパタとさせて、空へ上る。逃げ帰る兵士達がアリンコの集団の様に見える頃には羽根はドラゴンの羽根の様に立派になり、体も立派過ぎる成人女性の体形となった彼女。  バサバサと時折翼を動かして、その場でホバリング。遠くを見渡し、しばらく。北北東にそれらしき目標をとらえた彼女は、軽くため息を吐く。大きな羽根をばたつかせると、それを畳んで急降下。地面すれすれで小さくなった翼をバタつかせるも尻もちをついた。 「いったーい。またタイミングミスった。あ、ガレ様、20mクラスの巨人族が、十数体来てます。一時間後には、到着すると思います。と、今日中に来そうなお客さんは無いですね」  それを聞いた少年ガレイル・ガラリア・ガルガレイオ王は、虚ろな目のまま、一旦しゃがんで体育座りする。ポケットに入れておいた草を、丁寧に地面に戻して両手を合わせて沈黙する事五分。  立ち上がり、その辺に落ちている小石を手に取り握りしめた。 「GKH!」  ジーケーエイチの詠唱。巨人撲殺槌(ジャイアントキラーハンマー)を手にした小石から作りだした。対巨人族用のその槌は、彼の背と同じくらいの柄に、彼よりも大きな槌頭が付いた物。既に足が地面にめり込んで亀裂が生じている程の重さではあるが、彼は棒きれ同様に片手で軽く振り回している。  ゆっくりと、付き添い女子ベリエステル・ベルメルト、通称ベリベル、へ顔を向けた少年ガレ王。それに対して満面の笑みで北北東を指差す少女。右手で巨大な巨人撲殺槌、左腕にベリベルを抱える。王は、脆弱な深呼吸をすると、前触れもなくその従者と共にその場から消えた。  残されたのは北北東へと真っすぐ続く、地面の亀裂と砂ぼこりだけだった。
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