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七月下旬。期末試験を何とか赤点だけは回避して乗り切った俺は、補習のない自由な夏休みを存分にゴロゴロと過ごしていた。
昼下がり、リビングでつまらないテレビ番組をのんびりと見ていると、家の固定電話が鳴った。唐突に掛かって来た電話を取って、俺は首を傾げる。受話器越しに聞こえてくる声に、どうも聞き覚えがあるからだ。しかし、一体誰のものだったか思い出すことができない。
『京助、そろそろ夏休みだろ? 暇なら家に遊びに来ないか? 』
挨拶もそこそこに切り出されたその提案を聞いて、俺はようやく相手が誰か気が付いた。尋さんだ。
古瀬尋──もう随分と会っていない、俺の従姉妹。
部活を辞めて暇を持て余していた俺は、その誘いに一も二もなく頷いた。もちろんその仕草は、電話の向こうには届かないけれど。
「行きます」
『じゃあ、待ってるわ』
住所と最寄り駅だけを簡潔に告げられて、電話はそこで切れた。無駄にジェスチャーを交えてしまった俺が馬鹿みたいだ。
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