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俺が話している時、尋さんはじっと黙って耳を傾けてくれていた。
誰かに聞いてもらう、それだけで幾分か気が楽になったように感じる。肩が軽い。
「そうか、それは辛かったな」
「俺は辛くないですよ。辛かったのは辞めざるを得なくなるまで追い詰められた富士の方です」
そう言うと、尋さんは首を振る。
「いや、辛かったんだよ。京助も。京助は優しいから自分の心の痛さより、友達の心の痛みに目を向けてしまうんだ」
「別に……痛くなんか、ないですよ」
急に胃の辺りが苦しくなってきた。胸やけになった時のように。
「京助自身がそれを『痛み』と認識していなくても、お前の心はかなり擦り減っていたんだよ。じゃないとそんな寝不足になんてならないだろう?ましてや他人のために怒るなんてことは、かなりエネルギーを使うんだよ」
「そう……なんですかねえ」
「ああ。寝られなくなったのもきっと心のストレスが原因だろ」
そう言うと、尋さんは徐に俺の肩を抱き、自分の方へと寄せた。
「京助は覚えてるか知らんけど、母さんの葬式の時に言うてくれた言葉、割と嬉しかってんで」
尋さんはそう言うと俺の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でまわした。
「今日はもう寝り。移動とかで疲れただろ」
「……では、お先に寝ます」
布団に寝転んだあと、さっきとは何か別な感覚で胸がキュッとした。
食いすぎかな。
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