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 電話をもらってから二日後の早朝、始発電車に乗るためにいつもより早く起床した。日中と比べ、幾分かひんやりと湿った群青色の住宅街を駅に向かって歩く。約一週間分の宿泊道具を入れたバッグの重さと、朝の湿気た匂いに少しだけ懐かしさを感じた。 確か部活の合宿の時の朝もこんな感じだったな。 朝焼けを眺めながら電車に乗ること三時間半。乗り換えに乗り換えを重ね、ようやく目的の駅に到着した。田舎の駅は風通しが良く、見えない何かに背を押されているような感覚になった。 駅を出て、道を携帯の地図アプリに沿って歩く。てっきり尋さんが駅まで迎えに来てくれるのかと思っていたのだが、困ったことにあの電話以降連絡が取れなかった。 喉を伝う汗が服の中へ入る。肌がじりじりと焼けていき、蝉の喧騒が鼓膜に響く。田舎だから少しは涼しいだろうと思っていたが、見当違いだったようだ。日に当たった直後に全身から汗が流れ始めた。 平地に広がる田圃、それらを囲む山々を眺めながら歩く。道沿いにある木造のバス停の中で、頭にタオルを被せたおばあちゃん二人が談笑していた。 とぼとぼと重い荷物を持って歩く俺を、入道雲が涼しげに見下ろしている。その大きい姿はまるで夏の塊みたいだ。 暫く地図のナビ通りに進むと、古そうな邸宅が前方に見えてきた。それはいかにも邦画に出てきそうな外観の屋敷で、昔見たことのある『犬神家の一族』、『八つ墓村』の映画を彷彿とさせた。屋敷を囲む背の高い築地塀は白茶けていて、この建物が歩んできた歴史を物語っている。  小さいが立派な数寄屋門は、屋敷を守るように静かに佇んでいた。 地図上に映し出されている赤いピンは、前方の屋敷を刺している。どうやらここで間違いないらしい。門にも『古瀬』と新しい木で作られた表札がある。  門の傍らに引っ付いているインターホンを押すと、ぴんぽーん、と間の抜けたブザー音がした。少しすると、ぎぃっと門が開いた。 「久しぶり。よく来たな、京助」 「久しぶりです、尋さん」  開口一番に挨拶を交わす。少しハスキーな声は、電話で聞いた時と変わらない。彼女に会うのは数年ぶりだ。以前に会ったのは確か、尋さんのお母さんの葬式のときだった。
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