勇者と姫君

3/4
前へ
/4ページ
次へ
「お待ちしておりました」 姫は正座して三つ指立てて勇者を迎えた。所作は流石に王族といったところだ。物腰は柔らかで、洗練されている。決して綺麗とは言い切れない身なりながらも凛としている。 姫は顔を上げた。 「遅い!たわけが!」 勇者は肝心なことに気がついた。姫の手には鎖など無く、足元に引きちぎられた手錠が転がっていることに。そして、姫の居るこの石塔周辺には弱い魔物しか居なかったことに。勇者的には姫の目の前で強い魔物を倒し、何だかんだで少し怪我を負ってしまい「私を守るためにそんな……」的な展開で治療をしてもらい、鍛え抜かれた筋肉に触ってもらうというのが理想だった。それが、門の前には蝙蝠みたいな羽虫レベルしか居らず、怪我などひとつもなかった。 勇者は現実に向き合うことにした。 勇者の目の前におわす逞しい姫君は、守られる存在ではない。むしろ守ってくれそうな勢いすらあることに。姫の筋肉は無駄がなく、ストイックなアスリートのそれであった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加