勇者と姫君

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なぜか誘拐され、幽閉された姫君は退屈だった。これといった娯楽のない部屋に詰められたため、暇だった。手錠の小傷を数えるのも飽きた、数珠のように鎖の目を数えるのも飽きた。暇を持て余した姫君は己の筋肉に救いを求めた。スクワット、腕立て伏せ、懸垂。そして提供される食事は少なかったので全体的に痩せ、手錠から手を抜くことができるようになった。夜闇に乗じて石塔から脱走。良質なタンパク質を得るために魔物と戦い、喰らった。みなぎる力、しなやかに動く筋肉、ここら一帯で姫は最強になった。手錠は腹いせで潰した。 姫は勇者が派遣されることを知っていた。自分以上に強い存在の来訪に胸躍らせていたのだ。今の姫のスペックならば自力で帰還できる。そうしなかったのは勇者と戦ってみたい、姫は脳筋……もとい筋肉に全てを捧げた武人となっていた。 「さて……勇者。ここでひとつ、手合わせ願いたいのだが、異論は認めんぞ」 両者、戦闘態勢に入る。 奇妙な戦いが、今、始まろうとしていた。
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