信じないから

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家の中では、皿が割れる音や物が落ちる衝撃音があちこちで聞こえる。 長く続く揺れの中、孫の名を呼びながら這うようにして隣の部屋へ近づき中を覗いた瞬間、Aさんのお母さんはそこにあった光景にゾッとした。 部屋の中央で人形を持ちながら驚い様子で座っている孫の頭上すれすれに、向かい合わせるように置いていた箪笥同士が倒れて、まるで屋根と言うのか「人」の形で支え合うようになり、運良く孫の頭を直撃することなくバランスを保っていたのだという。 何とか今のうちに――! 僅かに揺れが弱くなるのを察知し、Aさんのお母さんは一気に孫の元へと向かい引き寄せると、そのまま近くの窓から庭へと飛び出し避難をした。 その後、数分おきに続く余震が落ち着くのを待って家の中の様子を確認すると、さっきまではバランスを保ち孫を守っていた箪笥は崩れ、部屋の中はもうぐちゃぐちゃになっていたという。 「これ、お母さんから聞いただけの話なんで、どこまで本当かはわかんないですよ? 嘘じゃないとは思いますけど」
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