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閉園時間迫る遊園地。僕らの乗る観覧車のゴンドラが、最高点から降り始めた頃。あの子から別れを告げられて、僕は「へえ、意外」とだけ返した。
学内でも指折りの悪女。男とサイフの区別がつかない。金の切れ目が縁の切れ目とは、あの子と同サークルに所属する友人の談だが、間違っているところを探す方が難しいとは僕の所感。
それでも、付き合っている内に変わってくれることを期待して、身も心も、もといサイフの中身も懐も削ってきたのだが、手切れ金と称して帰りの電車賃すらとられる始末。
忠告を聞かなかった手前、友人に迎えを頼むのは偲びない。退園を促すアナウンスが鳴り、アトラクション群に癒しを求める暇もない。何時間かかるか検討もつかないが、帰路につく他はない、と観覧車乗り場前のベンチから重たい腰を上げた時、彼は現れた。ーー闘牛を彷彿とさせる黒い大型バイクに跨って。
乾きを知らぬ円らな瞳。通気性の悪い尖った鼻に、穴の潰れた大きな耳。だらしなく開いた口の奥と、噛み合わせが悪く閉じ切らぬチャックの先は覗くべからずや。
アナウンスと入れ替わるようにして流された、この遊園地のテーマソング。その内容は同遊園地のマスコットキャラクターについて触れたもの。曲調はローテンポ。現在所有する唯一の紙媒体、遊園地のパンフレットに載っている歌詞を見ながらでも追唱できた。
そして、確信する。ハーフヘルメットを被ってはいるものの、彼こそがマスコットキャラクター「みけねこくん」なのだ、と。次いで、疑問が浮かぶ。なぜ、バイクに跨って僕を見つめているのだろう、と。
ーー警告、だろうか。早々に立ち去らなければ、お化け屋敷のオブジェの仲間入りだ、といったような。我ながら馬鹿げた推測だが、どの道、長居しては邪魔になる。ここに留まる理由もない。大人しく入退場ゲートに向かおうとして、やめた。彼が声をかけてきたためだ。乗ってください、と。
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