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『だから捨てたんだよ』
この言葉からは何の感情も読み取れなかった。だからこそ余計にぞくりとする。彼は……いや、こいつは女の敵だ。天使みたいな面して、中身は悪魔のような男だ。
「その点、千春さんだったらそういうことなさそうだし、楽だなーって」
「それどういう意……!」
カッとなって思わず言い返した私に、『たろちゃん』がお尻のポケットから何かを取り出しこっちに向けた。
それは白い封筒だった。
「……何よこれ」
「タダで住むわけにはいかないし、家賃? 毎月払うよ、このくらいでどう?」
ハッとして中身を確認すると、厚みのあるお札が。捲って数えてみる。一……二……三…………。一瞬自分の頭がおかしくなってしまったかと思った。数も数えられなくなったのか、と。だってここには──
「……じゅ、十万もあるけど……」
「足りない?」
「じゃなくて! こ、こんなに貰えない……!」
「じゃあ家賃プラス食費ってところかな? あと迷惑料? ねぇ、他にどんな理由を付ければいい?」
ソファにもたれかかったまま気だるげに微笑むその姿は、まるで猫だ。
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