3558人が本棚に入れています
本棚に追加
/519ページ
「ねぇ、そんなに難しく考えないでよ。ただのルームシェアだよ。千春さんが言うならご飯だって作るし、掃除だってするよ。もちろん、千春さんの恋愛の邪魔もしない。悪い話じゃないと思うけど?」
ルームシェア……たしかに、そうかもしれないけど……。
伸びをする『たろちゃん』が本当に猫か何かに見えてきた。猫がこの部屋に居着いてしまった、と考えれば、そんなに悪くないような気がする。……お金に釣られたわけだはない、決して。
「──わかった」
「千春さん!」
「だけどっ! 早く彼女見つけて早く出ていってよね!」
わざとキツイ口調で言い放つも、彼は意に介していないようだ。立ち上がると、私の方へ近づいてきた。
突然掴まれる左手。かと思えば、ぐいっと引っ張られる。
「え、なに──」
「ありがと、千春さん」
耳元に彼の息がかかった。低い囁き声が直接脳に届く。
「────っっ!」
久しぶりのこの感覚に、全身が沸騰しそうなほど熱くなるのを感じた。
『たろちゃん』はすぐに手を離すと、至近距離で私を優しく見つめる。そんな、いや、まさか……。彼の形のいい唇が、そっと開いた。
「よろしくね、千春さん。俺のこと、好きにならないでね」
「は……はぁ!?」
コーポひばり302号室に、悪魔が住み着いた。
絶対に絶対に絶対に、好きになんてなるもんか。
最初のコメントを投稿しよう!