天使か悪魔か

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「ねぇ、そんなに難しく考えないでよ。ただのルームシェアだよ。千春さんが言うならご飯だって作るし、掃除だってするよ。もちろん、千春さんの恋愛の邪魔もしない。悪い話じゃないと思うけど?」  ルームシェア……たしかに、そうかもしれないけど……。  伸びをする『たろちゃん』が本当に猫か何かに見えてきた。猫がこの部屋に居着いてしまった、と考えれば、そんなに悪くないような気がする。……お金に釣られたわけだはない、決して。 「──わかった」 「千春さん!」 「だけどっ! 早く彼女見つけて早く出ていってよね!」  わざとキツイ口調で言い放つも、彼は意に介していないようだ。立ち上がると、私の方へ近づいてきた。  突然掴まれる左手。かと思えば、ぐいっと引っ張られる。 「え、なに──」 「ありがと、千春さん」  耳元に彼の息がかかった。低い囁き声が直接脳に届く。 「────っっ!」  久しぶりのこの感覚に、全身が沸騰しそうなほど熱くなるのを感じた。  『たろちゃん』はすぐに手を離すと、至近距離で私を優しく見つめる。そんな、いや、まさか……。彼の形のいい唇が、そっと開いた。 「よろしくね、千春さん。俺のこと、好きにならないでね」 「は……はぁ!?」  コーポひばり302号室に、悪魔が住み着いた。  絶対に絶対に絶対に、好きになんてなるもんか。
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